ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方
自然を愛する夫婦が“夢”を追う8年間を描く
息を呑むほど美しい“究極の農場”が出来るまでをカメラに収め、世界各国の観客賞を受賞した奇跡のドキュメンタリー。
映画レビュー
PRO
美麗な自然とキャラの立った動物の映像が楽しめる“理想の農場”ドキュメント
五所光太郎(アニメハック編集部)さん | 2020年11月3日 | PCから投稿
ロサンゼルス郊外にある東京ドーム約17個分のやせた土地を、自然と共存した豊かな農場に変えていく8年間のドキュメンタリー。映像がとにかく綺麗で撮り方も格好よく、自然のなかで生きる動物たちの貴重なショットを沢山見ることができます。
夫婦が農場をつくるきっかけになった犬のトッド、出産シーンが印象的な豚のエマ、そのブタと仲良くなるニワトリなど動物のキャラが立っていて、展開も劇映画かと思うぐらい面白くできています。ドキュメンタリーにありがちな辛気臭さやお勉強しましょうといった感じがないのも好感がもてました。
中盤、農場の貴重な収入源である卵を産むニワトリがコヨーテに襲われ、農場主でもある監督はコヨーテに銃を向けつつ葛藤します。害虫や害獣を安易に排除しないことから頓知のように生まれてくる共生のアイデアはゲームのような面白さがあり、「DASH村」の大規模バージョンを見るようでした。
PRO
題名通り、見応えあるドキュメンタリー映画
山田晶子さん | 2020年6月26日 | スマートフォンから投稿
世界各国の映画祭で観客賞など数多くの賞に輝いたドキュメンタリー。ロサンゼルスから郊外に引越し、大自然の中で究極のオーガニック農場を目指す夫婦2人の8年という長い年月で巻き起こる奮闘の様がリアルに映し出されていく。
夫婦が里親となった黒いワンちゃんを筆頭にどんどん「新たな家族」が増える一方でトラブルも増えていくが、それらを乗り越えていく2人から「本能的な人間の強さ」さえ感じる。
コントロールできない自然を相手にしているため、思いもしない状況が常に生まれる臨場感が、通常のドキュメンタリー映画と一線を画す本作の魅力である。
困難は自然だけではなく、夫婦に知恵を与えていた唯一のアドバイザーである師匠が歳を重ねて弱ってしまう切ない状況でも生まれる。それらの困難に夫婦は、自分たちの理想の実現に向けてどのように立ち向かっていくのか?
「オーガニック」という美しい響きからは程遠い「過酷な現実」の課題にぶつかっていく綺麗事無しの本作だからこそ、夫婦の絆や自然の厳しさ、それらを乗り越える瞬間がその都度心に響く。
本作を見ることにより、日常生活では目を伏せがちな「自然の調和による、時には残酷な理想と現実」が垣間見える。
思わぬトラブルにぶつかり続けながらも笑顔を絶やさずに常に自然と向き合う8年間の現実だからこそ、地球(自然)と人間(生命)のあるべき姿などをより深く考察するきっかけにもなる秀作。
PRO
小さな生態系、大きな感動
高森 郁哉さん | 2020年3月21日 | PCから投稿
公開1週後の3月23日時点で注目度32位は、比較的地味なドキュメンタリーにしては大健闘だろう。映像作家と料理研究家の若夫婦が、無駄吠えする愛犬と共にアパートを追い出され、郊外の放棄された農場に移住する。農地が荒れ果てた原因は単作だったことから、夫婦は多品目を栽培し、家畜も多種類飼育する複合農業によって土地の再生を目指す。
愛らしい動物たちをとらえた映像が何とも素晴らしい。大きな母豚エマの小屋に物好きな鶏が闖入し、最初は迷惑そうだったエマも諦めて同居するエピソードなんて最高だ。台本通りに動くわけもない、予測不可能な動物たちのふるまいを長期間にわたって追い続けた撮影者の根気強さに感心する。
作物を荒らす害獣や害虫を、飼っている動物たちが餌にして駆除してくれるという展開も痛快で鮮やか。動植物と景観を瑞々しく収めた美麗な映像のおかげもあり、意外なほど大きな感動と癒しをもたらしてくれる。