【カンヌ最優秀女優賞受賞作「急に具合が悪くなる」ロングラン記念】濱口竜介×三宅唱×三浦哲哉の特別鼎談実施
2026年9月7日 20:00

第79回カンヌ国際映画祭にて主演のビルジニー・エフィラと岡本多緒が最優秀女優賞を共同受賞し、第99回アカデミー賞国際長編映画賞部門の日本代表にも選出された濱口竜介監督の最新作「急に具合が悪くなる」(公開中)。本作の全国でのロングラン上映を記念し、監督の濱口竜介、三宅唱、そして映画研究者の三浦哲哉による特別鼎談イベントが開催された。
2018年より「映画の演出」について対話を続けてきた3人。来場者の半数が2回目以上の鑑賞者という会場で、劇中のワンシーンの深掘りから映画制作のリアルな現状、さらに「次は何を撮ってほしいか」という話題まで、貴重なトークが展開された。
前半は、三宅が「この映画全体で最たるものは“涙”では」と切り出し、本作における涙の存在について語った。本作を鑑賞して「登場人物が何回か泣きますよね。書かれているに違いないと思われるような撮り方をされた涙もあれば、もしかしたら内発的に起きたような涙もあり、観ているこちらの感情も高ぶった」と語る三宅が、亡き著者の原作を映画化するにあたってのスタンスを問うと、濱口監督は「原作を読むにつれて腹から上がってくるような感覚が自分にもあった。体を突き動かされるような気持ちを貰って映画化しているわけだから、エモーションが高まるということは絶対に起こるべきだと思っていた」と返答。「操作的に“ここで泣く仕掛けですよ”というのではなく、単純にこの人たちの姿勢や態度を見たら、自然とこみ上げてくるのではと思っていた」と明かした。

また、介護のプロであるマリー=ルー(ビルジニー・エフィラ)が人目をはばからず泣いてしまうシーンについて濱口監督は、「ものすごくプロフェッショナルというよりは、もっとパーソナルな理由で(介護職を)やっている人であるということをむしろ描きたかった」と意図を説明。これに対し三宅は、「『こういう人なのかな』と思ったら、次のシーンでは予想と違う行動をしてくれることで、どんどんその人への関心が持続する」と濱口脚本の魅力を熱弁した。
さらに、主演のビルジニーから「私いつでも泣けるから大丈夫」と言われていたものの、実際のトラムでの撮影時には泣けなかったという裏話も披露。元の場所に戻っての再撮影が困難だったため、実は車窓から見える景色が繋がっていないという事実が明かされると、三宅は「それが予定調和ではないってことですよね」と深く頷いた。
そして話題は、濱口監督自身が「編集中によく泣いた」というシーンについて。三浦が絶賛したのは、真理の傍らに吾朗(長塚京三)が立って話す長回しのシーンだ。オレンジの光から青い光へと変化していく窓外の演出について、濱口監督は「実際の施設の部屋に人工的に光を作り、芝居の進行と合わせながらだんだんと絞っていった」と種明かしをする。「時間帯の推移は変で構わない。『映画ってそういうものでしょ』というスタンス」と語る濱口監督に対し、三宅は「もしかしたら最期の会話かもしれないという繊細な場面で、なぜ(失敗のリスクがある)夕日などの演出をやるのか?」と質問。
これに対して濱口監督は、「人工の光でやるということは、繰り返せるということ。リアリズムに基づく強度とはちょっと違う、フィクションとしての強度が求められている」と解説。編集時に泣いてしまうほどの映像が撮れたのは、「フィクションであることと、俳優自体がすごく信じられるものであることの両立」ができたからだと振り返り、三浦も「そのときの長塚さんの台詞が本当に素晴らしく、心に残っている」と改めて称賛を送った。


終盤では、劇中の資本主義を論じるシーンにちなみ「いくらあれば映画がつくれるか?」という映画づくりの資金の話にも。現在は数千万円規模の予算が必要になることに触れつつ、三宅は「映画館をめぐるお客さんの状況も変わり、どうやって回収するんだっけ? という感覚も変わっている。そっちの方が悩ましい」と現代ならではの苦悩をのぞかせた。また、「お互いに何を撮って欲しいか?」という話題では、三浦からの「小津安二郎のリメイク」という提案に濱口監督が及び腰になる一幕も。三宅からは「コミュニケーションが成り立たないものとどうしていくのかが見たい」と「宇宙人と遭遇する映画」が提案され、濱口監督も強い興味を示した。
一方、濱口監督からは三宅に対し、「純然たるアクション映画。チャンバラというより、市井の人たちの暮らしの中からすっと出てくるようなアクション。いまは“アクション映画を撮っている映画”を撮ってほしい」と逆提案。これには三宅も「企画が1個できた」と笑いを誘い、盛況のうちにイベントは幕を閉じた。
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