【第21回チューリッヒ映画祭】ベネディクト・カンバーバッチにゴールデン・アイ賞 マスタークラスでキャリアを振り返る
2025年10月2日 12:00

10月5日まで開催される第21回チューリッヒ映画祭で、ベネディクト・カンバーバッチが、当映画祭のランドマークであるゴールデン・アイ賞を授与され、ディラン・サザーン監督による新作「The Thing With Feathers」の披露とともに、マスタークラスを開催した。
映画祭ディレクターのクリスチャン・ジュンゲンは、「彼はその世代でもっとも多彩な役柄を演じてきた俳優です。舞台出身であり、実在の人物だろうが、マーベルコミックのキャラクターだろうが、すべての役に技巧を注ぎ、キャラクターに深みをもたらします。チューリッヒでは彼の多くの作品を上映してきました。彼が俳優としてもプロデューサーとしても精魂を注いだ新作とともに、生身の彼を今回ここに迎えられたことは大いなる喜びです」と称えた。

カンバーバッチは感激しながら、「まだまだリタイアするつもりはありませんよ(笑)」と冗談を言った後、「家族と、これまでわたしにチャンスを与えてくれた勇気ある人々に感謝します。いま光栄にもドラマスクールの校長をしているのですが、生徒の90パーセントがプロの俳優になれないという事実にショックを受けると同時に、いかに自分が幸運であったかを噛み締めています。人々の心に訴えるような物語を語ることができるのは大いなる特権です」とスピーチ。さらに続けて新作について、「そのひとつを今晩みなさんにお目にかけたいと思います。わたしがとても誇りに思っている作品です」と、紹介した。
マスタークラスでは、演劇でデビューを果たした初期の頃からのキャリアを早足で振りかえった。とくにスティーブン・スピルバーグの「戦火の馬」(2011)ではその壮大なセットを見て「これが映画だ!」と思ったこと、「SHERLOCK(シャーロック)」シリーズ(2010~)はあれほどの人気シリーズになるとはまったく予測していなかったこと、さらに「ドクター・ストレンジ」(2016)は、「マーベル・コミック世代なので、(演じることになって)とても興奮してコミックの世界に没入しました。でもはたと、待てよ、この男はひどい男尊女卑だし、胸毛も濃いし、改造が必要じゃないか、と気づきました(笑)。でもこうした有名なフランチャイズに何かスピリチュアルなアイディアをもたらせること、彼は自分が世界を守るという使命を持ちますが、実際誰もが人々をヒーリングできる可能性を持っているというメッセージは大切だと思いました。それに彼はとてもクールでしょう」と解説した。
©Andreas Rentz (Getty)_for ZFFまたアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたジェーン・カンピオンの「パワー・オブ・ザ・ドッグ」(2021)に触れ、「ジェーンは最初、僕を配役することに懐疑的だったと思います。それで実際に会って話をしたり、いま思えば軽いテスト期間のようなものがありました。正式に決まってからは、6カ月間、途中他の撮影で若干中断はありましたが、ミリタリー・キャンプのようにモンタナの牧場に住み込み、ロデオから剥製技術から皮や工具の扱いやバンジョーまで、あらゆるものを学びました。僕の経験では最長の準備期間で、まったく異なる世界に没頭したのはとてもエキサイティングな経験でした。キャラクターになりきることは、その人のおこないを許したり称賛するわけではない。でもそう言ったものを超えて、つねにそこに痛みや傷を発見するし、答えのない何かをもたらされるもの。あのキャラクターはそういった複雑さを体現するとともに、マスキュリニティというものを問いかける重要な物語で、ジェーンはそれをとてもユニークなやり方で鮮烈に映像化してみせたと思います」と語り、拍手を浴びた。
Benedict Andreas Rentz©️ZFF2025一方、マックス・ポーターのベストセラーの映画化「The Thing With Feathers」で、初長編劇映画デビューを果たしたサザーン監督については、「脚本も自身で執筆した彼は、原作のスピリットに忠実に真実味を持って映画化してくれるとわかっていました。ページに書かれているものを適切な映像の形にしてくれるだろうと。以前キリアン・マーフィが演じた舞台版も観て、この題材に魅了されていました。舞台版とは異なりますが、とても美しい仕上がりになっていると思います」と自負をのぞかせた。本作は突然妻をなくし悲嘆にくれる夫が、幼い子供を抱えながら精神的な葛藤を経て立ち直るさまを、彼の内なる世界に立ち現れる「羽を持った存在」を交えて詩的に描く。
カンバーバッチといえば、日本ではもう一本の新作、ジェイ・ローチ監督によるコメディ「ローズ家 崖っぷちの夫婦」が10月24日に公開される。こちらは「ローズ家の戦争」(1989)をリメイクしたもので、カンバーバッチと夫婦役を演じるのがオリビア・コールマン。ともに共演したがっていたというだけに、あうんの呼吸による辛辣な舌戦、さらにフィジカルな暴走コメディぶりが鮮烈だ。まさに、「多彩な役柄を演じることができる俳優」であることを証明した1本と言える。(佐藤久理子)
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