霧のごとく

劇場公開日:2026年5月8日

解説・あらすじ

「1秒先の彼女」「熱帯魚」などで知られる台湾のチェン・ユーシュン監督が、1950年代の台湾で多くの市民が反政府の疑いをかけられ逮捕・処刑された「白色テロ」の時代を背景に描いた希望と再生の物語。

1950年代、戒厳令下の台湾。嘉義で暮らす少女・阿月(アグエー)は、反政府分子として捕らえられた兄が台北で処刑されたことを知る。わずかな金と兄の形見の時計を手にひとり台北へ向かう阿月だったが、兄の遺体を引き取るには高額な手数料が必要だった。途方に暮れていたところを怪しい男に騙され、遊郭に売り飛ばされそうになった彼女は、人力車の車夫・趙公道(ザオ・ゴンダオ)に助けられる。中国・広東出身の彼は、国民党軍の兵士として台湾に渡って以来、故郷へ帰ることもかなわず、その日暮らしの生活を送っていた。白色テロで軍の仲間を失い人生に行き場を見いだせずにいた公道は、阿月の思いに心を動かされ、手を差し伸べることを決意する。

「アメリカから来た少女」のケイトリン・ファンが阿月、「香港の流れ者たち」のウィル・オーが趙公道を演じ、台湾の人気歌手で俳優としても活躍する9m88(ジョウエムバーバー)が共演。2025年・第62回金馬奨にて最優秀作品賞を含む4部門を受賞した。

2025年製作/134分/G/台湾
原題または英題:大濛 A Foggy Tale
配給:JAIHO、Stranger
劇場公開日:2026年5月8日

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映画レビュー

3.5 雲にはなれなかった無数の霧たち

2026年5月20日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

悲しい

不思議な設定とコミカルなセリフで、しかも最後はほっこりとした感動で観客を包み込む作品が得意なチェン・ユーシュン監督が、戦後台湾の白色テロを題材にした。
これだけで、彼がどのようにこのシリアスな歴史を料理するのか、公開前から非常に楽しみだった。
白色テロを取り上げた作品はこれまでに何本も観てきたが、どれもその時代を生き残った者たちの慟哭そのものだった。そして、当たり前だがユーシュン監督もそれらの作品をよく観て、敬意あるオマージュを捧げている。
冒頭、広大なさとうきび畑に続く道を少女がこちらに向かって歩いて来る美しい場面。しかし、彼女が道を外れてさとうきび畑の中へ入ろうとするあたりから画面には不穏な空気が充満してくる。
これはワン・レン監督の「超級大国民スーパー・シチズン」の冒頭で、手前に向かって来る前照灯を点けたトラックが、道を逸れて背の高い草むらへ入った途端に、幻想的な画面から緊張感が漂い始めるのに相似してはいないだろうか。
また、広東語を話す輪タク車夫が、広東語は話せない少女を自分の妹だと偽るために、少女は口を利けないということにしてしまうあたり、ホウ・シャオシェンが「悲情城市」でトニー・レオンの役を聾唖者の設定にした逸話と同じ構図である。

白色テロの作品とは関係ないが、誘拐がきっかけで事態が混迷し、誘拐があったからこそいくつかの出会いがあり、なんとか本来の目的を果たすことができるというプロットはユーシュン監督作品でいちばん好きな「熱帯魚」そのものだ。あの映画では、主人公の少年というよりはむしろ軟禁?されていた田舎の家族のどうしようもないほどの人の好さに焦点が合っていた。
この作品でも、不幸にして政府の弾圧の犠牲となった人びとが後年になって身元が判明し弔われるのとは対照的に、あの辛い時代を生きていたことには変わりなくとも、生き残ったが故に社会の片隅でひっそりと暮らし、その存在が社会に強く知られることもなく消えていく人びとにこそ注目している。雲にはなれなかった霧たちである。
輪タクの車夫、泥棒、誘拐犯やその仲間のヤクザ者たち。もしかしたら眼鏡の秘密警察だって最後は名もなく散ってしまったかも知れない。
報道機関からのFAXにおびただしい犠牲者名が連なっていることとは対照的に、輪タク車夫の行方を知る者など誰もいない。犠牲者として名を残した雲。そんな雲になれなかった無数の霧。
戒厳令が解かれ、経済成長を遂げた今の台湾はその霧も晴れて久しい。霧におおわれていた時が確かにあった。そのことを忘れないで。
この作品でもユーシュン監督の温かいまなざしに触れることができた。ただし今回はほっこりではなく、霧だけに瞼がしっとりとした。

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佐分 利信

4.0 兄の遺体を巡る阿月の冒険

2026年5月20日
iPhoneアプリから投稿

『熱帯魚』のチェン・ユーシン監督作品なので観に行ったら、台湾政府の反政府主義者への弾圧と言う社会派的なテーマで驚きました。50年代の台湾、反政府運動に加担したため銃殺された兄の遺体を引き取るため、主人公の少女が単身台北に行くお話しです。台北で人攫いから救い出してくれた輪タク車夫の青年と共に、引き取り資金を博打でスったり、謎の義賊と遭遇したり、歳の離れた姉に会いに行ったりと、まさに少女の冒険譚です。それでいて、彼女を助ける台湾の人々のささやかな善意や人情がさりげなく描かれ、ユーシン監督らしいタッチが心地よいです。一方で、反政府主義者を取り締まる刑事は、戦前の日本の特高警察のような不気味さで、ドラマに暗いトーンを落とします。エピローグで語られる、90年代まで台湾で戒厳令が続いていたと言う事実が、この事件が台湾の人達にとって今も目の前にある現実であることに胸が痛くなりますが、その上での幕切れの鮮やかさに感心しました。役者さん達も地味ながらいい感じでした。

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シネマディクト

4.0 生きる元気を与えてくれる映画

2026年5月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

1950年代、白色テロ下の台湾で、人々がいかに自分に科された運命と戦ったのか描いた映画。主要人物は3人、まだ幼さが残るが、仲の良かった兄の遺体を引き取ろうとして嘉義から台北に出てきた少女、阿月。途方にくれている彼女を助けてくれた広東出身の元兵士、趙公道と、小さい時、養子に出された阿月の姉、大輪のように美しい。
台湾の街を歩いていてまず気づくことは、古い旧市街と現在の発展を象徴する新市街があって、共に活発で繁栄していること。この映画でも、現在から白色テロの時代を振り返って見る視点と、当時から将来を見越している視点の二つが感じられる。
そういえば、台湾を統治していた日本は、鉄道、上下水道などのインフラ、学校を中心にした教育制度を残したが、同時に警察を軸にした住民相互監視制度を発展させ、それが白色テロの土壌になったのではないかと思うと何とも言えぬ気分に襲われる。
私が一番気に入ったのは、広東語、北京語と台湾の言葉を話し(私には区別できず)、どんな状況に陥っても、決して挫けることがなかった趙公道!何とかして、応援してやりたくなる。

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詠み人知らず

未評価 台湾の趙雲

2026年5月20日
iPhoneアプリから投稿

シネマート新宿で チェン・ユーシュン監督『霧のごとく』鑑賞。ポスターの感じから アート指向の青春映画かと思ったら、案外ベタだったなあ。しかしそのベタなのが素晴らしかった! 泣けた。人間ドラマとして充分に楽しめるし、戒厳令下の台湾政府の権力や末端の外省人の悲哀を知る一助となった。#42

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はにわさん in 2026