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さすが価格高騰中の金を専門に扱うSGC、プロモーションビデオもえらく豪華やなあ……と思うほど惜しみなく金製品が出てくる。
田中麗奈演じる美香子がバーナーで金のおりんを炙るシーンがあるが、あれは本当に金製のおりんを炙ったそうだ。それと、美香子たちが3Dプリンターで作った偽物の秀吉の金茶碗、あれは500gの純金を使ったリアル金茶碗をラッカースプレーで偽物っぽく塗装したものだとのこと。どういうこだわり?(笑)
SGCの役員がエグゼクティブプロデューサーを務めたから出来た英断(?!)だろう。途中でSGCのCMみたいなシーンもあったし、やっぱPVかなこれ……プライベートジェットにスイートルーム、やっぱ金の商売って儲かるのかな……
でもPVにしてはほんのり自虐要素もあって(映画の中のSGC、ちょっと怪しい会社に見えるし)、嫌な宣伝臭は感じなかった(※ PVだという客観的根拠はありません)。金のネックレス、なかなかいいなと思ってしまった。
主人公の美香子は、なんとも癖つよなキャラクターだ。
親からは大学に行かなくていい、26までに結婚しろと言われながらも進学したが、そこで出会った路範に結婚後は家庭に入るよう言われてしまう。80年代生まれってまだそういう世代だっけ? 萱野監督が大分出身であることも、当時の価値観に対する感覚に反映されているのだろうか。この辺はちょっと彼女に同情した。
冒頭の大黄金展でおりんを万引きするシーンは、実話に基づいている。13年前、札幌三越で開催された大黄金展を訪れた主婦が、約530万円の18金のおりんを盗んだ。8日後に夫に連れられて自首した彼女は、「きれいだなと思って盗んだ」と供述したそうだ。
ここもまだ、美香子の気持ちを想像できなくもなかった。人間、魔が差すということがある。
だが、金城に北海道旅行に招待されたあたりから、美香子は本格的に無軌道な感じになってくる。自分は旅行先で金城に対して下心があったくせに、路範の浮気に対しては「金茶碗を盗むか離婚」という厳しくて意味不明な二択を突きつけるのは、ちょっとおまいう案件だなと思った。まあ、致した路範と未遂の美香子という差はあるのだが。
金茶碗強奪作戦のパートは、半分は信州ゴールデンキャッスル見学ツアーという感じで、なかなか楽しめる。金茶碗泥棒の嫌疑をかけられた後の美香子のふてぶてしさは、SGC関係者の怪しげな雰囲気のせいもあってか、一周回って爽快だ。
地頭はいいが働いたことのない不思議ちゃん主婦という雰囲気の出し方が、田中麗奈は上手い。森崎ウィンも、想像以上に胡散臭い役が似合っていてよかった。
宮崎美子が演じた、路範の母親の言葉が妙に印象に残った。彼女は美香子に対し、ネックレスに飽きたら新しいのを買ってもらえ、あなたにはその権利がある、確かそのように言った。彼女は美香子が本当は働きたいのに路範の意向を受け入れて専業主婦になったことを理解している。母親のこの一言で、路範の父親の夫としての姿まで目に浮かんだ。
最終的に美香子は路範と離婚し、細々と働きながら一人暮らしをしていることが最後に描かれる。一見寂しい終わり方で、萱野監督自身もラストについて「人は何を手に入れても満たされない」と述べている。
だが、個人的には彼女の視点に立てばむしろハッピーエンドであるようにも見えた。
美香子はずっと、他の誰にもできないことをやりたいという秘めた願望を持っていた。だが時代の風潮に負けて、社会人として仕事でそれを果たすことが出来なかった。秀吉の金茶碗を盗むという行為が、その願望を満たしてくれた。金茶碗は戦利品であり、記念の品である。
彼女がもっとも欲しかったのはお金ではなく(そもそも盗品なので換金は困難だが)、自分という人間が生きた証なのだろう。誰にも出来ないことをやりとげその証を手に入れた今は、綻びの見えた結婚生活など手放しても平気なほど、彼女は満たされたのだと勝手に解釈したい。
金茶碗も、うやうやしく飾られるのではなく日々使われることで、器としての本懐を遂げられたのではないだろうか。