サンキュー、チャック : インタビュー
マーク・ハミルがマイク・フラナガン監督作で達成したもの「彼との仕事が俳優としての情熱をもう一度呼び起こしてくれた」

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どうやらもうすぐ世界が終わるらしい。未曾有の大災害が相次ぎ、すべての通信手段も失われたあるとき、街中に「ありがとう、チャック」という広告が現れる。誰もその存在を知らないチャックとは果たして何者なのか。その数奇な人生が紐解かれていく――。
「シャイニング」などでお馴染み<モダンホラーの帝王>、スティーブン・キングの中編小説を、「ドクター・スリープ」などを手掛けてきたホラー映画/ドラマの名手、マイク・フラナガン監督が映画化した「サンキュー、チャック」(5月1日公開)。3度目のタッグとなるこの2人で紡がれる本作は、まさかの心震わす感動作。キング原作映画としては「ショーシャンクの空に」や「グリーンマイル」の系譜を継ぐ作品と言えよう。
「グリーンブック」や「ノマドランド」などに続き、トロント国際映画祭の最高賞を受賞した本作の主人公・チャックを演じるのはMCUフランチャイズのロキで知られるトム・ヒドルストン。共演者にはキウェテル・イジョフォーにカレン・ギランらのほか、「スター・ウォーズ」のルーク・スカイウォーカー役でお馴染みマーク・ハミルが参加する。今回、非常に重要な役どころを果たしたハミルに、作品の魅力やマイク・フラナガン監督&スティーブン・キングとの邂逅、本作に出演したことで達成できたものなどについて語ってもらった。(取材・文/ISO)
【「サンキュー、チャック」あらすじ】

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大規模な自然災害と人災が次々と地球を襲い、世界は終わりを迎えつつあった。インターネットもSNSもつながらないなか、街頭やテレビ、ラジオに突如として、「チャールズ・クランツに感謝します。素晴らしい39年間に、ありがとう、チャック」という謎の広告が大量に現れる。高校教師マーティが元妻フェリシアに会うため家を飛び出すと、誰もいない街はチャックの広告で埋め尽くされていた。無事に出会えたマーティとフェリシアが星々を眺めながら終末の到来を感じ、手を握り合っていると、場面は一転して広告の人物・チャックの視点に切り替わり、彼の人生をさかのぼる物語が美しい映像で紡がれていく。
●妻に言われた「これまでのあなたの作品で一番好き」

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――マイク・フラナガン監督×スティーブン・キング原作というコンビからは想像もつかないトーンの作品で驚かされました。人生を逆から辿るという語り口からして独特ですが、本作のどのような部分に魅力を感じましたか?
たしかに予想外の作品でしたね。というのも以前にマイクと組んだ「アッシャー家の崩壊」はとても過激な、正真正銘のホラーでしたから。ただもともと私はスティーブン・キングの大ファンなんですが、彼は世間が思っている以上に多才な作家なんです。彼は「シャイニング」や「呪われた町」(映画「死霊伝説」の原作)、「キャリー」といったホラー小説で知られていますが、一方で「スタンド・バイ・ミー」や「ショーシャンクの空に」、「グリーンマイル」などの感動作も書いているんですから。つまり、彼は単純にひとつのジャンルに収まるような存在ではない。実に素晴らしい作家なんです。
私は映画化が進む前に、キングの中編集「If It Bleeds」に収録されている本作の原作を読みました。実は私も最初はもっと伝統的なホラーや超自然的な物語を期待していたんです。でも実際に読み始めてみるとその独自性に圧倒されて、すぐにでもこの作品に参加したいと思いました。

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――たしかに本作は「ショーシャンクの空に」のように感動的なキング作品の系譜にありますが、その一方でハミルさんが演じるアルビーに関しては、どこかミステリアスでキング的なホラー要素も少し持つ人物だと感じました。
先ほどこの作品は典型的なホラーではないと言いましたが、おっしゃる通り作中には「幽霊の部屋」のようなものがあるということは認めざるを得ないですね。アルビーには秘密があり、観客が「彼はこういう人物だろう」と認識したところで、それを思わぬかたちで裏切る。それがアルビーというキャラクターの気に入っている部分でもあります。
特にお気に入りなのは、チャックに「数学なんて退屈だ」と言われたときに、アルビーが論理的かつ情熱を持って反論するシーンです。あれはマイクが書いた原作にはないオリジナルのスピーチなのですが、それによって彼の人物像が見事に決定づけられている。あんなに長く喋り続けるなんて、圧倒されますよね。長すぎて覚えるのは大変でしたが(笑)。

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でも撮影は最初から最後まで本当に楽しかった。共演したミア・サラやコーディ・フラナガン、ベンジャミン・パジャックたちのことが大好きでしたから。心からそう思っていたので、演技で「好きなふり」をする必要すらありませんでした。皆で実に素晴らしい時間を過ごしたんです。
そして完成した映画を観て、改めて素晴らしいキャストだと実感しました。トム・ヒドルストン、サマンサ・スローヤン、ケイト・シーゲル、マシュー・リラード…挙げていけばきりがありませんが、見事なアンサンブルで美しく作り上げられた作品で、その一員になれたことを誇りに思います。実は妻にこう言われたんです。「これまでのあなたの作品で一番好き」ってね。それだけでも大きな達成です。
●「引退」が頭をよぎるなか、フラナガン監督が呼び起こした俳優としての情熱

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――先ほど「アッシャー家の崩壊」に言及されましたが、フラナガン監督は「ドクター・スリープ」や「ジェラルドのゲーム」などホラーの印象が強い作家でもあります。今回は人間ドラマの側面が際立つ作品での再タッグとなりましたが、改めてフラナガン監督のどのような点に惹かれているのでしょうか?
彼はまず人柄がとにかく素晴らしい。「アッシャー家の崩壊」のときには私の家に来てくれて話をしたんですが、すぐに打ち解けたのを覚えています。人当たりが良くて、聡明で、ユーモアもある。本当に素敵な人で、仮に仕事で関わっていなかったとしても、自然と友人関係になっていたと思います。彼の現場はとてもリラックスしていて、まるで家族と一緒にいるような感覚になるんです。
私は「ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス」を家族で観て以来、マイクのファンでもありました。「ザ・ホーンティング・オブ・ブライマナー」や「真夜中のミサ」も観ています。彼がこのプロジェクトに参加してほしいと声をかけてくれたときには、彼が学生時代に手掛けた作品も含め調べて見直したんです。特に大好きだったのは「ジェラルドのゲーム」と「サイレンス」。改めて彼の唯一無二の才能に魅了されましたね。
そんな彼と仕事ができたのは本当に幸運だと思います。というのも、彼との仕事が、俳優としての情熱をもう一度呼び起こしてくれたから。人はある段階まで来ると「やりたかったことは一通りやったな」と感じる瞬間があるものです。そうなると次に頭をよぎるのが――私のエージェントや妻が一番嫌がる言葉なんですが――「引退」という選択肢だったりもする。私自身は、その言葉をそれほど悪いものとは思っていません。だって若い頃ほどのモチベーションが常にあるわけではないですから。ただ今回のような作品に出会うと話は別ですし、しかもそれがマイク・フラナガンのような人物との仕事であればなおさらです。「アッシャー家の崩壊」も、そして「サンキュー、チャック」も、どちらもこれまで自分がやってきたものとはまったく違う作品でしたしね。
――本作のテーマである「人生」や「死」についてどのように受け止めたのでしょうか?

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まさにそれが核心だと思います。この作品には終末的な要素、つまり世界の終わりが含まれていて、それが観る者をいい意味でコンフォートゾーンの外へと押し出すんです。しかも、予想していなかった形で。物語は最初はとても複雑に感じられますが、私の登場するパート——物語上は第1幕だけど作中では最後に語られる部分——に至る頃には、驚くほどシンプルになる。もしそれが時系列通りに語られていたらどうなっていたか想像してみることも面白いですね。でも逆順で語るからこそ、伏線が後から効いてくる。
正直なところ、核心に触れず説明するのは難しい作品です。「言葉にし難いものをどう宣伝するのか?」とプロデューサーにも言ったくらいですからね。なんなら何も知らずに観て、自分で「こんな作品だったのか」という言葉を見つけてほしい。私自身周囲に「レビューも関連記事も読まずに、ただ観に行ってほしい」と伝えています。だからまずは観に行ってほしいですね。何が起こるかまったく知らない状態で観るのが一番ですから。
●「ロングウォーク」への出演も。大好きなスティーブン・キングに認められた歓び

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――先ほどスティーブン・キングがお気に入りの作家とお話されましたが、ハミルさんは本作と同じくキング原作の「ロングウォーク」(6月26日公開)でも非常に強烈な役を演じられていましたね。
「サンキュー、チャック」が初上映されたトロント国際映画で初めて彼に会ったんです。席に着く直前に、スタッフから「あなたはキングの隣の席です」と言われてね。熱狂的なファンとして溢れんばかりの気持ちを抑えながら、平静を装って挨拶ができたので自分は良い役者だなと思えました(笑)。
で、席に着くと彼は私のことを「ロングウォーク」の役名である”少佐”と呼んだんです。でもその時はまだ撮影に入る前だったので驚きました。後からスタッフに「なぜ彼は『ロングウォーク』の少佐を私が演じると知っていたんですか?」と尋ねると、スタッフは「キング原作が映像化され始めた初期に作品のクオリティコントロールができなかったという苦い思い出を経て(※)、キングは今映像化作品の監督・脚本・キャスティングの承認権をあらゆる段階で持っているんです」と話していました 。つまり彼には、誰に監督してもらい、誰に演じてもらうかという最終決定権がある。

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そしてスティーブンはマイクの仕事をとても評価しています。マイクは「ジェラルドのゲーム」を映画化した後、「シャイニング」の続編である「ドクター・スリープ」も任されていますから。スティーヴンはすべてにおいて承認権を持っていますが、マイクはその本質をきちんと理解している。スティーブンも非常に協力的ですからね。嬉しいことに彼は「サンキュー、チャック」もとても気に入ってくれました。大好きな作家本人に認められた作品に関われたというのは、私にとってとても大切な経験でしたね。
※初期作品の映像化にスタンリー・キューブリックの「シャイニング」があるが、キングは「ホテルが持つ悪の性質を理解していない」として批判したことは有名。
――最後に、本作を観た観客にどのような気持ちで劇場を後にしてもらいたいですか?

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私が感じたように「人生を肯定してくれる作品」だと受け取ってほしいですね。そのときは些細に思える瞬間が、後になって大切なものになるのだと気づかされる。まるで今まで経験したことのない“プリズム”を通して人生を見るような感覚です。少なくとも私にとってそういう効果のある映画でした。とても前向きなメッセージに満ちていて、型破りな語り口だからこそ、その印象はより強まっているように感じます。観た人が同じように感じてくれて、友人や家族にも勧めてくれたら嬉しいですね。一度だけじゃなくもう一度大切な人を連れて観にいって、その感情を共有してもらえたら。