劇場公開日 2026年4月3日

「この不気味さに気づけるかを試されている?」落下音 somebukiさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 この不気味さに気づけるかを試されている?

2026年4月6日
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まず最初に言っておきたいのだが、この映画、気軽に「面白いよ!」とはすすめられない。
でも、劇場で観てほしい。矛盾しているようだけど、それが正直な気持ち。

1910年、1940年、1980年、2020年代ーとある農場を舞台に、四つの時代に生きる少女たちの物語が並走する。マシャ・シリンスキ監督自身がインタビューで語っているように、当時の社会には言葉で記録されることのなかった暴力が存在したらしく、
本作はその「語られない物語」を正面から描かれている。

印象的だったのは徹底した「曖昧さの美学」だ。
写真に写る人物の顔はブレて幽霊のように溶け、濁った川の水中に佇む人影は輪郭を失う。
明確に見せないことで、なんかいやな気分、不安な気分にさせられる。
そして音響の使い方が本当に意地悪で(褒めている)、極端に強調された静寂の中に突如ハエの羽音だけが響き渡る。あのハエ、ずっとうるさくて不快。
でもそれが、とあるセリフ以降に何かを感じるように不快感が徐々に薄まっていく。

全体的にセリフは少なく、物語は淡々と進む。
まさに「サビのない映画」みたい。
盛り上がりの合図を一切くれないまま、観客を迷子の迷路に誘い込む。

ストーリは個人的には初見での理解は相当に困難。
4つの時代が並行してランダムに交差するため、人間関係を把握する前に頭が白くなる。
入場特典として相関図カードが配布されるのだが、「野暮じゃない?」と思いつつも、チラ見しておいて少し助かった。
ただこの「混乱」、当時の女性たちが置かれた「言語化できない不条理」を体験させるための仕掛けかもしれないと、後から思えるのがまた憎い。

亡くなった人物と同じ名前を与えられた末っ子、叔父に抗いがたい引力を感じてしまう少女など
こうした細部に宿る「なんとも言えない怖さ」の描写は、当時のトラウマを描いていると思うが、意外と今もどこかに潜んでいるかもしれない。

現代では、ネットやSNS、メディアに溢れているため少しの出来事を取り上げられる時代だが、
当時はよく見ないと見落としてしまいそうな出来事、フォーカスされないと気づけない「なんとも言えない怖さ」の暴力が今と比べてより潜んでおり、それを感じていただろう女性たちが描かれている気がした。

あと、冒頭のおへそに溜まる汗の描写は頭どつかれたぐらいの衝撃だったし、すべてを見終えた後の疲労感は本物だった。

長編2作目とは思えない演出の密度を持つシリンスキ監督の次作には、大いに期待したい。
「映画がとにかく好き」な方には、全力でおすすめしたい一作だ。

somebuki
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