「勝つための3つのルール」アプレンティス ドナルド・トランプの創り方 Dickさんの映画レビュー(感想・評価)
勝つための3つのルール
●冒頭、下記が示される:
Events and characters portrayed in this film are based on real events and individuals, but some events and names of real individuals have been fictionalized for dramatic purposes.
❶あらすじ(出典:Google-AI):
①敏腕弁護士との出会い(1970年代):
1970年代のニューヨーク、20代のドナルド・トランプ(セバスチャン・スタン)は、父の不動産会社が黒人差別的な入居審査を行っていたとして政府から訴えられ、破産の危機に瀕していた。そんな中、トランプは政財界の有力者が集まるニューヨークの高級会員制クラブに最年少会員として入会し、そこで、悪名高き辣腕弁護士ロイ・コーン(ジェレミー・ストロング)と出会う。コーンは、勝つためには脅迫や盗聴など手段を選ばない冷酷な男だったが、うだつの上がらないトランプを気に入り、実業家としての「勝つための3つのルール」を伝授する。★下記❷②参照。
コーンの非情な手腕によって政府との裁判を有利に解決したトランプは、彼を父親以上のメンターとして深く傾倒していく。さらに、コーンの後ろ盾を得て大規模な減税措置を勝ち取り、マンハッタンの「ハイアットホテル」再開発や、自身の象徴となる「トランプ・タワー」の建設を成功させ、メディアの寵児へと成り上がっていく。この時期にモデルのイヴァナ(マリア・バカロヴァ)と出会い、結婚する。
②師弟関係の逆転(1980年代):
1980年代に入ると、トランプの野心と傲慢さは肥大化し、かつての「見習い(アプレンティス)」だった立場から、コーンを脅かす存在へと変貌していく。トランプは、地道な不動産業を営む実父を見下すようになり、さらにはアルコール依存症に苦しむ実兄のフレッド・ジュニアが亡くなった際にも冷淡な態度を取り、妻イヴァナとの関係も冷え切って性的暴行にまで発展する。一方、絶対的な権力者だったコーンは、当時未知の病であったAIDSを発症する(本人は世間に対し「肝臓がん」と言い張っていた)。コーンが弱体化し、司法省から弁護士資格の剥奪処分を受ける危機に陥ると、トランプは彼を利用価値のない人間として突き放す。
③結末:
病状が悪化し、死を目前にしたコーンのために、トランプは別荘で誕生日のサプライズパーティーを開く。しかし、トランプがコーンにプレゼントしたのは、金メッキの安物のカフスボタンだけだった。トランプは「偉大なコーン」を称える演説をするが、そこに以前のような敬意はなく、ただの自己顕示のためのパフォーマンスに過ぎなかった。コーンは涙を流し、車椅子でその場を去っていく。その後、コーンは孤独のうちにこの世を去る。
④映画のラスト:
トランプは自身の容姿への執着から、頭部の植毛手術と腹部の脂肪吸引手術を受けるエピソードが描かれる。肉体的にも精神的にも「作られた怪物」となったトランプは、ゴーストライターを前にして、自身の自伝『トランプ自伝:アメリカを変えた実業家(原題:The Art of the Deal)』のインタビューに臨む。そこでトランプは、かつてコーンから授かったはずの「3つのルール」を、さも最初から自分自身が編み出したオリジナルの哲学であるかのように自信満々に語り出す。師であったコーンの存在を完全に自分の中から消し去り、自らが絶対的な成功者であると言い聞かせるようにカメラを見つめるトランプの姿で、映画は幕を閉じる。
⑤MAGA(Make America Great Again)
劇中、トランプが「MAGA」を用いるようになった経緯が出てくる。元来、「MAGA」は1979年、アメリカが高い失業率とインフレの深刻な経済状況悪化に悩まされていた頃に作られた標語で、1980年の大統領選挙におけるレーガン陣営がピンバッジやポスターで使用した。これを2016年の大統領選挙でドナルドがスタッフから提案により再利用したのだ。商魂に長けたトランプはこれを商標出願し、標語入りの帽子をかぶることで世に広めたのだ。ずる賢い相手には、正論だけでなく、相手を打ち負かす戦略・戦術が必要なことを教えてくれる。
❷考察とまとめ
①本作は、成功を夢見る20代のトランプが、伝説の弁護士:コーンに導かれて驚くべき変身を遂げ、トップへと成りあがるまでの道のりを描く。
②コーンはトランプに幾つものビジネス上の秘訣を伝授する。その最大のものが「勝つための3つのルール」。これがトランプの政治キャリアにおける基本戦略そのものとなっている。
ⓐルール1:攻撃、攻撃、ひたすら攻撃しろ
トランプは政治の世界において、防御に回ることは一切せず、常に先制攻撃や逆攻撃を仕掛けることで主導権を握り続けた。政敵への不名誉なレッテル貼り、弾劾裁判や捜査への反撃等。
ⓑルール2:何も認めるな、すべてを否定しろ
自身に不都合な事実やスキャンダルが発覚しても、決して過ちを認めず、謝罪もしない姿勢を貫いている。「フェイクニュース」、疑惑の全面否定等。
ⓒルール3:たとえ負けても、勝利を主張し続けろ
これが最も顕著に現れ、アメリカの歴史を大きく揺るがすことになったのが、2020年大統領選挙。選挙不正の主張、支持者の連邦議会議事堂襲撃事件等。
③コーンが教えたルールは、司法の世界で生き残るための「法廷テクニック」だったが、トランプはそれを「大衆を熱狂させ、権力を握るための政治戦略」へとスケールアップさせた。客観的な「事実」よりも「声の大きさ」と「勝ち続ける姿勢」を重視するこのスタイルは、アメリカの政治を分断すると共に根本から変えてしまったと言える。
④反対陣営やマスコミ(一部)は、これを批判したが、トランプは、「勝つための3つのルール」で完璧に防御し、むしろ自身の強力な武器へと変えてしまったのだ。これもまさに、劇中で描かれた「事実を上書きして勝利を主張する」コーンの教えを体現したものだった。
⑤トランプは、コーンの教えをただ真似るだけでなく、凡人には不可能なレベルの強烈なカリスマ性と圧倒的な扇動力によって、それを何百倍もにスケールアップしてしまったのだ。
⑥本作は、単なる一政治家の伝記にとどまらず、「現代のメディア社会において、いかにして勝者が作られるのか」という本質的な問いを投げかけているのだ。
⑦トランプを演じたセバスチャン・スタンは、顔が本人と似ている他、口を尖らせる話し方や身振り手振りまでよく似ている。上出来である。
